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東京高等裁判所 昭和22年(わ)233号 判決

上告人 被告人 浅野辰雄 山辺晴俊 並に原審弁護人 高橋義次 保坂治喜

檢察官 酒井正己関與

主文

本件上告はいずれもこれを棄却する。

理由

本件上告の趣意は末尾に添附してある弁護人高橋義次同保坂治喜作成名義上告趣旨書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は次の通り判断する。

第二点刑法第五條の法意は同一事件について外国も裁判権を有し又我国も裁判権を有する場合に於いて外国が同一行爲について已に確定裁判をして居ても外国の裁判は我国に於て既判力を認められて居ないから更に同一行爲について裁判をし処罰するを妨げないと謂うのであるから同條が適用せられるには同一事件について外国も裁判権公有し又我国も裁判権を有すると言うことが前提條件である。

次に刑法第五十五條所定の連続犯なるものは本來の一罪ではなく取扱上の一罪である。即本來は数罪であるが被告人の利益の爲に裁判上一罪として取扱ひ処断するものである。從つて連続犯を構成する個々の罪が同一裁判権に服し裁判上一罪として取扱い得ることが前提條件である。

仮令連続したる数個の同一罪名に触れる行爲であつても一部が外国の裁判に服し他の一部が我国の裁判に服すると言う様な場合は全部を一罪として取扱うことができない筋合であるからして両者間には連続犯の関係は認められないのである。して見ると一部について外国の確定裁判があつても他の部分について我国が裁判をする場合に同一事件について裁判をすると言うことができないから刑法第五條の適用はない訳である。從つて犯人が右外国の裁判の執行を受けても我国か他の部分について裁判をする場合に刑の執行を減軽したり又は免除したりすることはあり得ないのである。

而して本件に於ける事実関係は論旨第一点に対する判断に於て説示した様に被告人等が犯意を継続して犯した数個の窃盜行爲の内一部がアメリカンクラブの確定の軍事裁判を受けその刑の一部の執行を終つたものであるが、軍事占領下の我国の裁判権は特に留保せられざる限り我国の裁判所に任されて居るところ西暦千九百四十六年二月十九日指令第七五六号昭和二十一年六月十一日勅令第三百十一号第一條第四号によつて連合国占領軍その将兵又は連合国占領軍に附属し若しくは随伴する者の財産を不法に所持し取得し受領し又は処分する行爲は軍事占領裁判所の裁判権に服し我国の裁判権はこれに及ばないことになつて居るから前段に色々説明した理由によつて右アメリカンクラブの確定裁判は本件の場合に刑法第五條の外国の確定裁判の当らないものと言うべきである。同條の適用あることを前提として原判決を種々論難する論旨は的がはづれて居る、採用する訳にはゆかぬ。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 細谷啓次郎)

弁護人高橋義次、保坂治喜上告趣意書

第二点の(1)  原判決は判決ありたる後刑の廃止若くは変更ありて法令違反の違法あるに至つた、即ち原判決は昭和二十二年七月二十三日なされたのであるが其後昭和二十二年十月二十六日刑法の改正法が公布せられ同年十一月十五日より実施せらるるに至つた。然して前述の如くアメリカンクラブの裁判を受けた罪と本件公判の裁判を受けた罪とは実質上一の連続犯として一罪を構成するものと信ずるが果して然らば右アメリカンクラブの裁判及び其執行は性質上外国の裁判であるから同一の罪に付既に外国に於て言渡された刑の一部の執行を受けたものと言える。而して右改正法中に第五條中「免除することを得」を「免除す」と改めると言うのがあり此の改正によつて本件の場合に於ては実質上刑の廃止があつた事になる。(他の上告論旨は省略する)

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